(承前)
さて、ここまで、「跨境贸易电子商务服务试点」(越境EC試験区)の概要について整理してきました。
以前にもちょっと触れましたが、日本から中国向けECを検討する際に、重要なのは、
・ 為替(中国消費者の中国元を、いかに日本円にして回収するか)
・ 配送(どのようにして中国の消費者に商品を届けるか)
の2点です。
今回は、これらのポイントについてまとめておきます。
【為替】
ご存知のとおり、中国元と外貨との両替はまだ自由化されておらず、原則として、貿易など実需に基づく両替のみが認められていて、両替時にはエビデンスを提出する必要があります。
旅行や越境ECでの個人輸入での購入などのため、エビデンスなしに中国元から外貨に両替する場合、中国人であれば、年間5万ドルまでの両替枠と身份证が紐づけられていて、中国人1人あたり5万ドルが限界となります。外国人の場合も、中国元⇒外貨については、いろいろ規制があり、少額であればともかく、ビジネスとしてエビデンスなしに両替するのは困難です。
そのため、中国向けに越境EC(跨境B2C)を行う場合、商品の代金をどの通貨で回収するのか、留意する必要があります。
単純に、「タオバオでお店を作って、商品を日本からEMSで発送し、アリペイに入金されたお金を日本円に両替しよう」としても、このときの個人輸入については、販売者側に通関・貿易のエビデンスも残らないため、貿易に基づく両替とはなりません。少額であれば何とでもなりますが、売上が一定規模を超えると厳しいわけです。
中国のEC取引流通額の約4分の3は、天猫(Tmall)/淘宝(タオバオ)のプラットフォームになるわけですが、天猫は中国法人がなければ出店できませんのでそもそも越境ECとしては使い勝手が悪いです。淘宝(タオバオ)は、日本人が個人で出店することも可能ですし、出店料や販売手数料がかからないというのが何より魅力なわけですが、あくまでC2Cのプラットフォームであり、本格的にビジネスを展開するには、両替の面で厳しい問題が発生します。
天猫(Tmall)/淘宝(タオバオ)のプラットフォームでお客様が検索でき、かつ、日本の法人が出店し、日本から中国のお客様に商品を送るとなると、一番現実的な方法は、天猫国際(Tmall国際)ということになります。この天猫国際は、支付宝国际(アリペイ国際)と回収スキームを用いており、お客様は元建ての支払いとなりますが、支付宝(アリペイ/Alipay)のほうで外貨に両替した上で、出店企業には、出店企業の指定する通貨に両替して振込まれます。お客様が支付宝国际(アリペイ国際)で支払う場合、事前に、身分証やパスポート番号を登録して本人認証を済ませておく必要があるため、おそらく、外貨管理上は、支払ったお客様の両替枠で両替したということになるのでしょう。
【配送】
配送については、大きく「郵政のスキーム」と「民間のスキーム」に分けることができます。
郵政のスキームとしては、
といった方法が挙げられます。
郵政のスキームを用いる場合、先に述べた関税については、課税される場合はお客様が受け取り時に郵便局で支払うことになります。簡易課税の税率は、最低でも10%ですので、理屈の上では、500元相当以上の場合は関税がかかるわけですが、当然、通関時に全件チェックなどはされていません。
よく、「1000元未満は実際には関税を徴収されることはない」「チェック対象になるのは、全体の1割程度」などと言われていますが、弊社や私の周囲の状況を見ていても、実質その程度という感じがします。ただし、「大きな箱」「同じ形のものがたくさん入っている」ものは、比較的チェックされやすい感じで、逆にインボイス上の申告金額はあまり関係ないと感じています。
弊社から出荷する場合、アンダーバリューは一切受け付けず、インボイスにはすべて正しい金額を記入した上で、関税については受取人のほうで責任をもってもらうようにしていますが、1万元ぐらいのものであっても、単品で発送した場合、実際に関税が徴収されているのは1割ぐらいのようです。もちろん、徴税されてもお客様からこちらに報告されていないケースもあるはずですが。
さて、各配送方法の特徴です
<EMS>
越境ECの定番と言うべき配送方法です。中国向けについても、比較的早く、上海や北京あたりだと2~3日で到着しますし、配送の品質も高いです。
ただ、値段の高さはどうしても問題になります。
<国際eパケット>
郵便小包と書留を組み合わせたサービスです。2kgまでという制約があります。
EMSより格安というのが謳い文句なのですが、中国向けについては注意が必要です。
それは、
- 「大都市の中心部以外は配達が遅い」
- 「そもそも、家まで配達されないケースが多い」
- 「中国国内のトレースがリアルタイムにできない」
ということです。
上海の中心部の事務所等に送る場合は、EMSとほぼ同じ日数で着く場合もありますが、たとえ都会の中心部であっても、郵便局留めになって配達してもらえないことがあります。まったく配送にいかない場合と、不在時に不在票もいれずに持ち帰ったまま、何も連絡がこないケースがあるようです。弊社の経験だと、1割~2割の荷物が最後まで配達されず、お客様が郵便局に問い合わせて引き取りに行ったり、配送不能で戻ってきたりしています。
そして、上海や北京の空港を経由して別の都市に配送される場合、そこからさらに1週間ぐらいかかるケースが多いです。さらに、その先の配送状況が、日本の郵政の画面だけでなく、中国の郵政の荷物追跡システムにもリアルタイムに反映されないため、お客様からクレームがきた場合に、現在荷物がどこにあるのかを把握するのにかなりの手間がかかります。
EMSのほうがかなり品質が安定している上に、EMSの場合は、出荷件数に応じて割引がありますので、月間500件以上の出荷がある場合などは、中国向けに国際eパケットを使うのは避けたほうが良いでしょう。
<国際小包(SAL便/船便)>
当然、安くなりますが、時間もかかります。
物量が多くなると、EMSとの金額差が大きくなるため、弊社のケースでは、お客様が大量の商品を購入された上に、「遅くてもよいから送料を安くしてほしい」と依頼された場合に用いることになります。
SALで2週間、船便は1ヶ月以上かかることが前提になりますので、受取人も仕組みをしっかり理解していないと、トラブルになります。
実際、B2Bならともかく、通常の越境EC(跨境B2C)で、特に信頼関係も構築されていない一般のお客様向けの出荷において、これらを用いることはあまり考えられないでしょう。
さて、次に民間のスキームです。
これまで、個人輸入の荷物は、中国側ではすべて郵政通関するしかなかったわけですが、この度、「跨境贸易电子商务服务试点」(越境EC試験区)の登場によって、民間の物流網にて日本から中国の個人のお客様に配送するという選択肢が出てきました。
まず、一番簡単な方法が、ヤマト運輸(正確にはヤマトグローバルロジスティクス)が提供する「チャイナダイレクト」です。
こちらは、上海の試験区を用いて、CNPEXと組んで始めたサービスです。
将来的にはかなり有望な配送手段なのですが、現時点では以下のような課題があります。
- 受取人は、事前に専用サイトから身分証の登録を行わなければならない。
- 身分証の登録については抵抗のあるお客様も多く、身分証の登録が必要であればキャンセルするというケースもよくあります。
- ヤマトグローバルロジスティクスの専用サイトで身分証の写真をアップロードするわけですが、その画面にお客様を誘導するために、かなりの説明が必要になります。(将来API等が公開されれば、自社サイトであれば、自社サイト内で登録させることは可能になると思われますが、タオバオなど中国のECモールに出店している場合、ヤマトグローバルロジスティクスの画面に身分証の登録をしてもらうには、この会社の説明等をしっかり実施して納得していただく必要があります。もちろん、将来、このチャイナダイレクトが中国消費者の間で有名になり、信頼されるようになれば、ハードルはかなり下がりますが。)
- 現時点ではEMSとの料金の差がそれほど大きくない
- ヤマトグローバルロジスティクスが出している基本料金はかなり高いですが、実際には法人向けの割引があります。ただし、少量の荷物であれば、割引後の運賃とEMSとの料金差はそれほど大きくありません。
- 重量が大きくなればEMSとの料金差も広がりますが、チャイナダイレクトの場合は、事前申告で関税を納めなければなりません。送り主が納付するので、EMSのように、受け取り時に関税が発生して受け取り拒否になることはないのですが、EMSで発送した場合に、本来関税がかかるべき量の荷物であっても実際には関税が徴収されないことのほうが多いことを考慮すると、この関税も実質運賃として計算する必要があり、商品によっては(特に化粧品など関税が50%の商品)、送料+関税の実質負担額がEMSの場合よりも高くなりがちです。
- チャイナダイレクトは、現時点では羽田まで送り主が商品を届ける必要があります。国内でそれなりに出荷していて、国内の配送料金が安く、かつ中国向けに毎日確実に2桁の出荷がある場合はまだ良いのですが、1回に1件や2件だと、日本国内の運賃がバカにならないという課題があります。
- 事前にヤマトグローバルロジスティクスのほうで商品登録をしておかないといけない
- 配送する商品については、事前にヤマトグローバルロジスティクスのほうで審査とマスター登録を行うことになります。メーカーであれば問題ないですが、お客様からの依頼を受けて都度、商品を手配して発送している、いわゆる代購(代购)にとっては、ちょっと使いづらい仕組みとなります。
民間で、チャイナダイレクト以外の手段となると、越境EC試験区(跨境贸易电子商务服务试点)で倉庫業務を行っている中国の物流会社と直接契約し、日本国内から、フォワーダーを経由して、越境EC試験区(跨境贸易电子商务服务试点)に荷物を配送し、そこで通関後に、中国国内の宅配業者を用いて配送することになります。
この場合、自社の出荷拠点から越境EC試験区(跨境贸易电子商务服务试点)までのコストをどこまで抑えられるかがポイントです。
まず、1日に100kg以上の物量がある場合は、間違いなく、自社でフォワーダーと越境EC試験区(跨境贸易电子商务服务试点)の物流業者を見つけて、直接契約するのが最も良い方法になるでしょう。1件あたり平均1kgとすると、毎日100件以上の出荷件数が目安です。50kgぐらいでもフォワーダーとうまく交渉できれば、十分に利用価値があります。
逆に、1日に10件程度であれば、サービスレベルを落として、週2回配送とかにすればEMSよりは安くなるケースが多いと思われますが、この程度の件数だと、無理をせずにチャイナダイレクトを使ったり、EMSで割引を貰いながら出荷するほうが良いかも知れません。
なお、越境EC試験区(跨境贸易电子商务服务试点)を利用する場合も、関税はすべて申告して納税しなければなりません。そのため、100元以上の化粧品(シャンプー、せっけん等も含む)などを販売する場合は、関税にも考慮する必要があります。それに対し、食品や雑貨など、税率10%の商品が中心で、中国の若い世代向けであれば、1回あたりの購入単価も500元未満で免税となりがちで、実際の関税の負担は、出荷金額の数%程度に収まるケースが多いでしょう。
ところで、今月、日本郵便から、UGX(ゆうグローバルエクスプレス)というサービスが発表されました。
まだ詳細についてはわかりませんが、中国もサービス対象に入っているようなので、どのようなサービスが発表されるのか楽しみにしております。
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跨境B2Cのお話はしばらく休憩にして、次回からは「日本人でも簡単にタオバオにお店が作れるようになった!!」というお話をしたいと思います。